2013.07.28 Sunday
侯爵蜂須賀家売立と柴田是真と幸阿弥長孝作「小原木盃」
『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』は、昭和8年10月23日に東京美術倶楽部で行われた売立の目録で、徳島藩主蜂須賀家旧蔵の名品が一挙大放出された歴史的な売立でした。蜂須賀家は飯塚桃葉の主家で、その傑作が多くこの売立で出品されているため、22年前から何度となく見返して来たのですが、見落としていたある1枚の絵に今日初めて気付きました。
この売立には、実は柴田是真の茶器と漆絵画帖も出ています。蜂須賀家は維新後、竜池会や日本美術協会にも深く関係しているので、その関係で注文されたものなのか、ともかく是真の作品も収蔵していたのです。もちろん、掲載されていることは気づいていましたが、漆絵画帖の中の1枚が、小原木盃であるということに初めて気付いたのです。
小原木盃は、寛永のころ、東福門院和子が詠んだ小原木の歌に沿って当時の幸阿弥家が献じたとされる伝説的な盃で、その約150年後、幸阿弥長孝が記録に則って作った作品です。あるいは8代将軍徳川吉宗に奉ったともされています。その小原木盃は、1つしかないと思っていたのですが、2009年5月に上田藩の御典医の家に伝わっていたものを新たに発見したのです。それにより、漆工史学会『漆工史』第34号に「幸阿弥長孝と「小原木盃」に関する考察」として発表しました。
この際、柴田是真がそれを写してモチーフとした「名人尽蒔絵重箱」を偶然発見し、さらに是真が典拠とした資料として、東京芸術大学大学美術館所蔵の柴田是真写生帖の内、幸阿弥家伝来の史料を筆写した「幸阿弥家蔵寫」の中に、その記録も発見しました。そうして判ったことは、柴田是真は、幸阿弥長孝が備忘として残した箱書の写しをもとに、小原木盃を、自分の想像で「名人尽蒔絵重箱」の中に描いたということでした。つまり幸阿弥家の記録は、文書だけでデザイン画がなかったので、是真は自分で創作してしまったのです。
その創作した作品は、論文発表当時、「名人尽蒔絵重箱」1点しか知らなかったのですが、漆絵としても描いていたことが判明したというわけです。写真が不鮮明で図様が見えなかったため、何度も見ていたのに全く気づかなかったのです。漆絵の画中には、「東福門院様御好/幸阿弥長孝/是真寫(古満)」とあります。残念ながら、この漆絵画帖は行方不明です。原品が発見されることを期待したいと思います。
全ての漆工人を研究対象にしていると、ある漆工人の研究が進んだことによって、別の漆工人の謎が解けたりすることが時々起ります。小さな事柄ですが、その積み重ねによって、意外に大きな謎が解けたりもします。

『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』表紙

柴田是真筆「漆絵画帖」 『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』

「漆絵画帖」の内、小原木盃 『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』

幸阿弥長孝作「小原木蒔絵盃」
この売立には、実は柴田是真の茶器と漆絵画帖も出ています。蜂須賀家は維新後、竜池会や日本美術協会にも深く関係しているので、その関係で注文されたものなのか、ともかく是真の作品も収蔵していたのです。もちろん、掲載されていることは気づいていましたが、漆絵画帖の中の1枚が、小原木盃であるということに初めて気付いたのです。
小原木盃は、寛永のころ、東福門院和子が詠んだ小原木の歌に沿って当時の幸阿弥家が献じたとされる伝説的な盃で、その約150年後、幸阿弥長孝が記録に則って作った作品です。あるいは8代将軍徳川吉宗に奉ったともされています。その小原木盃は、1つしかないと思っていたのですが、2009年5月に上田藩の御典医の家に伝わっていたものを新たに発見したのです。それにより、漆工史学会『漆工史』第34号に「幸阿弥長孝と「小原木盃」に関する考察」として発表しました。
この際、柴田是真がそれを写してモチーフとした「名人尽蒔絵重箱」を偶然発見し、さらに是真が典拠とした資料として、東京芸術大学大学美術館所蔵の柴田是真写生帖の内、幸阿弥家伝来の史料を筆写した「幸阿弥家蔵寫」の中に、その記録も発見しました。そうして判ったことは、柴田是真は、幸阿弥長孝が備忘として残した箱書の写しをもとに、小原木盃を、自分の想像で「名人尽蒔絵重箱」の中に描いたということでした。つまり幸阿弥家の記録は、文書だけでデザイン画がなかったので、是真は自分で創作してしまったのです。
その創作した作品は、論文発表当時、「名人尽蒔絵重箱」1点しか知らなかったのですが、漆絵としても描いていたことが判明したというわけです。写真が不鮮明で図様が見えなかったため、何度も見ていたのに全く気づかなかったのです。漆絵の画中には、「東福門院様御好/幸阿弥長孝/是真寫(古満)」とあります。残念ながら、この漆絵画帖は行方不明です。原品が発見されることを期待したいと思います。
全ての漆工人を研究対象にしていると、ある漆工人の研究が進んだことによって、別の漆工人の謎が解けたりすることが時々起ります。小さな事柄ですが、その積み重ねによって、意外に大きな謎が解けたりもします。

『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』表紙

柴田是真筆「漆絵画帖」 『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』

「漆絵画帖」の内、小原木盃 『侯爵蜂須賀家御蔵品入札』

幸阿弥長孝作「小原木蒔絵盃」